ドイツにおける「2016年の言葉」は postfaktisch(ポスト事実的な)
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12月9日にドイツ語協会(Gesellschaft für deutsche Sprache) は、「2016年の言葉」
(GfdS wählt »faktisch« zum Wort des Jahres 2016 | GfdS) を発表しました。
恒例になった「その年の言葉」は頻度から選ばれたものではなく、選考委員会の人たちが「その年を特徴づける」言葉の中から選んだものです。
2016年の言葉(第1位)は、postfaktisch(ポスト事実的な)でした。
これは、11月16日に発表された
Word of the Year 2016 is… | Oxford Dictionaries
で、post-truth という形容詞が選ばれましたが、その翻訳借用語です。
post- という接頭辞は、「…の後の、…の次の」という意味ですが、「次にやってくる」という意味では、
post- が付けられる元の語の概念を乗り越えている、というニュアンスもあります。
「ポスト真実の」というのは、「真実の後にやってくる」という形容詞になりますが、決して真実を乗り越えているわけではなく、イギリスの EU 離脱の国民投票の結果や、
アメリカの大統領選挙の結果を象徴的に語っているように見えます。ワシントン・ポスト紙は、このオックスフォード辞典の「今年の語」選考結果をうけて
“It’s official: Truth is dead. Facts are passe.” と言っています
(‘Post-truth’ named 2016 word of the year by Oxford Dictionaries | By Amy B Wang(Nov. 16, 2016))
同様に、ドイツ語の postfaktisch(ポスト事実的な、事実の後にやってくる)もかなり悲観的で皮肉っぽい表現です。
postfaktisch | Jochen A. Bär 氏による解説には、メルケル首相の言葉も引用されています。
Viel zitiert wurde eine Erläuterung aus dem Munde der Bundeskanzlerin:
»Es heißt ja neuerdings, wir lebten in postfaktischen Zeiten. Das soll wohl heißen, die Menschen interessieren sich nicht mehr für Fakten, sondern folgen allein den Gefühlen.«
Quelle: postfaktisch | Jochen A. Bär, http://gfds.de/wort-des-jahres-2016/
第 2位は、Brexit(ブレグジット「イギリス離脱」)。ご存知のように Britain と exit を組み合わせて作られた語。
日本でも大きく報道されたようにイギリスの国民投票の結果、イギリスが EU 離脱を選択することになったことを表した語。僅差ではありましたが、多くの人たちにとって信じられない結果だったようです(去年は、Grexitが3位に入っていました)。
第 3位は、Silvesternacht(大晦日の夜)。ケルンで昨年の大晦日から今年の正月にかけて起きた暴行事件を象徴的に語る言葉。難民がどのように関与していたのか、報道は何をどのように伝えたのか、事件の真相は何か、対処の仕方は正しかったのか、さまざまな議論を引き起こした事件でした。
第 4位は、Schmähkritik(虚偽の批判)。ある人間の中傷が全面に出るような批判的発言を指します。具体的には、風刺作家ヤン・ベーマーマン(Jan Böhmermann) がエルドアン大統領に対して書いた詩がその一例としてあげられています。
第 5位は、Trump-Effekt(トランプ効果)。これは、アメリカ大統領選挙でのトランプ氏(Donald Trump)の勝利がもたらした影響のこと。選挙戦中の過激な発言は、世界中に大きな反響を呼びました。
第 6位は、Social Bots(社会的ボット)。外部から遠隔操作するための不正プログラムの一種がボットですが(ロボットのボットから来ています)、一旦のっとってしまえば、繰り返し特定のタスクを実行できるので、その様子をたとえて、ある意見がたった一人の人から発せられたとしても、それが多くの人から発せられたように仕組むこと。広告や政治的プロパガンダで使われると言われています。
第 7位は、schlechtes Blut(悪い血)。エルドアン大統領がトルコ系ドイツ人議員を中傷するのに使った言葉で、再び「血」に言及するという恐ろしい過去のナチ的発言が思い出されてしまいます。
第 8位は、Gruselclown(恐怖の道化師)。とりわけハロウィーンの季節に人を驚かせようとして仮装する人たちが、現実に恐怖の事件を引き起こしてしまったことがあるそうです。
第 9位は、Burkiniverbot(ブルキニ禁止)。「ブルキニ」とは、「オーストラリアのデザイナー、ザネッティ氏による手足の先と顔だけしか露出しないイスラム女性信者用の水着」のこと。フランスでは禁止にするところもあったのですが、裁判所によって「基本的人権の侵害」と判断されました。
第10位は、Oh, wie schön ist Panama(ああ、パナマってなんて素敵なの!)。同じ題名の絵本があるそうですが、今年は「パナマ文書」が公開され、多くの著名人が関わっていたところから、マスコミ等で「ほのめかし」に使われた文だとのこと。
日本では、日本漢字能力検定協会が発表する 今年の漢字 2016年 が、12月12日に発表されました。
2016年の「今年の漢字」は、「金」(キン・コン/かね・かな/こがね)。153,562票の投票から最多のものとして選ばれました。
2位は「選」(セン)、3位は「変」(ヘン)でした。
詳細は、2016年「今年の漢字®」第1位は「金」| 公益財団法人 日本漢字能力検定協会 をご覧ください。