メルケル首相、2日間弱の日本滞在を終える(3/9-10)
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7年ぶりに来日したドイツのメルケル首相(Bundeskanzlerin Angela Merkel)は、
2日間弱の短い滞在時間に予想外の「間接的」な表現のスピーチで大きな反響を呼びました。
多くの新聞が「歴史認識」と「脱原発」の問題提起がなされたと報じていますが、実際には、日本政府に向かって助言をするという形ではなく、
ドイツはこうしました、ということをきちんと述べる(beschreiben)ことで、メッセージを伝えたわけです。
南ドイツ新聞(Süddeutsche Zeitung, 3月9日)に掲載されたRobert Roßmann氏の記事は、
Besuch in Japan: Merkel versucht es mit höflicher Kritik
(「日本訪問:メルケルは礼儀正しい批判でそれを試みる」)というタイトルで、その内容の一部は朝日新聞(3月11日)にも紹介されています。
同記事には、「メルケル氏は『外国への助言がしばしば逆効果になると知っており、日本批判をあえて避け、ドイツの選択の正しさを説明する道をとった』と読み解いた。」
と一部を和訳して引用しています。この部分を含むドイツ語は、以下のようになっています。
An Mittwoch jährt sich die Katastrophe von Fukushima zum vierten Mal. Da lässt sich die Energiepolitik bei einem Japan-Besuch kaum aussparen. Ministerpräsident Shinzo Abe setzt trotz des GAUs weiter auf die Atomenergie, Deutschland hält das für einen Irrweg. Merkel weiß, dass öffentliche Ratschläge an andere Staaten oft das Gegenteil dessen bewirken, was man will. Also hat sie sich dafür entschieden, auf Kritik an Japan zu verzichten und stattdessen nur zu beschreiben, warum Deutschland seinen Weg für richtig hält.
Quelle: Merkel versucht es mit höflicher Kritik |Süddeutsche Zeitung, am 9. März 2015
上記の朝日新聞の和訳した文のすぐ後で、「だから、彼女(メルケル首相)は、日本に対する批判をあきらめ、そのかわりになぜドイツが自らの進む道が正しいと考えるのかだけをきちんと述べた」
と言っています(つまり、見出しとは異なり批判はしなかった、という解釈です)。
beschreibenを「きちんと述べる」と和訳しましたが、「…を描写する」という和訳もされる動詞で英語の describe
に相当するものです。「(出来事)を言葉を使ってちゃんと説明する」という意味があります。
さらに同朝日新聞の記事では、フランクフルター・アルゲマイネ新聞の電子版(Aktuelle Nachrichten online – FAZ.NET
に掲載された3月9日付けの記事のタイトルを「安倍晋三首相に『ドイツの教訓』」と紹介していますが、
こちらは、Merkel in Japan „Deutschstunde“ für Shinzo Abe | FAZ.NET です。Deutschstunde は「ドイツ語の時間」(=ドイツ語の授業)という意味で使うのが普通ですが、
考えてみると確かに「ドイツの時間」にもなります(朝日新聞の記事を担当した玉川透氏は『ドイツの教訓』と意訳)。
朝日新聞社が共催した講演会で、メルケル首相が会場の人たちからの質問に答えている様子をこの記事の筆者 Carsten Germis 氏がこのように表現したのですが、
タイトルにもこの語を使って „Deutschstunde“ für Shinzo Abe とやったところが絶妙でした。