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5月16日からブンデスリーガ再開、ただし無観客試合で。

5月16日からブンデスリーガ再開、ただし無観客試合で。
Seit 16. Mai ist die Bundesliga wieder zurück, allerdings mit Geisterspielen.

日本のメディアでも紹介されたように、去る5月16日(土)からブンデスリーガが再開されました。日本の多くのテレビニュースでは、アイントラハト・フランクフルト(Eintracht Frankfurt) と ボルシア・メンヒェングラードバッハ (Borussia Mönchengladbach) の無観客試合 (Geisterspiele[直訳すると「お化け試合」]) の一部が紹介され、アイントラハト・フランクフルトの長谷部誠 (Hasebe Makoto) がマスクをして観客席で出番を待ちながら観戦している姿を紹介していました。試合は、3対1で、 ボルシア・メンヒェングラードバッハが勝利しましたが、観客席には観客はおらず、間をあけて座って出番を待っている選手たちがいて、シュートが決まってもハイタッチ (abklatschen) もなければ、抱き合うことも (sich umarmen) なく、距離をとって不思議な動作でシュートを祝っているところが映っていました。

新型コロナ感染症が世界中で猛威をふるっていますが、このところヨーロッパ各国では、感染者数と死者の増加が穏やかになってきたことをうけ、規制緩和が始まりました。ドイツでは、封鎖されていた国境が再び開かれ、商業施設も少しずつオープンしてきています。そんな中でのブンデスリーガの再開なのですが、世界中でスポーツイベントがいまだに中止されたままなので、大注目です。アイントラハト・フランクフルトのマネージャーを務めるフレディ・ボビッチ (Fredi Bobic) は、「世界中のスポーツ界が注目している。」(„Da guckt die ganze Sportwelt drauf.“) といっています。(Bundesliga-Comeback: Fredi Bobic spricht von “einem historischen Tag” – kicker) さらに、この新型コロナ感染症がまだ収束したとは言い難い状況に対してフレディ・ボビッチは次のように言っています。

「私たちは、ウイルスがまだそこにいる、という考え方で生きていかねばなりません。そして、私たちは、あらゆる生活領域の中で、あたかもそうではないかのように振る舞わなければならないのです。プロのサッカー選手という立場から離れてもそうです。残されたリスクは存在しつづけます。でも、さまざまな規則を守っていけばいいんです。」( “Wir müssen damit leben, dass das Virus da ist – und wir müssen uns in allen Lebensbereichen so verhalten, dass uns das nicht trifft. Auch abseits des Profifußballs. Und ein Restrisiko ist immer da. Doch wenn man sich an die Regeln hält, dann ist das okay.”) (Bundesliga-Comeback: Fredi Bobic spricht von “einem historischen Tag” – kicker)

ウイルスはいるはずだから、いるはずのウイルスに備える、というのはあたりまえのことです。でも、ウイルスのことばかりを考えていたら、いつまでも正常な生活はできません。そこで、あたかもウイルスなんていないかのように振る舞いながら、これまでとは違った「新たな正常」 (new normal; neue Normalität) を受け入れるという考え方が出てきます。「ウイルスがいるかもしれない」状況を正常なこととして受け入れるのです(新型コロナ危機の前に存在した正常さは、「昔の正常な世界」になってしまうのでしょう)。

5月16日付の stern.de には、「ブンデスリーガが無観客試合で新たな正常さへ向けてスタートする ー 2つのチームが規則を無視する」(Bundesliga startet mit Geisterspielen in neue Normaliät – zwei Teams ignorieren die Regel | STERN.de))という記事を載せています。そこでは、ドイツサッカーリーグ(DFL; Deutsche Fußball Liga) の内部文書「COVID-19 組織回覧特別試合対策」(Covid-19 Organisations-Rundschreiben Sonderspielbetrieb)に書かれている禁止事項「一緒に喜びの声を上げる、ハイタッチをする、抱き合うことは慎むように」(„Gemeinsames Jubeln, Abklatschen und Umarmungen sind zu unterlassen“)が守られなかったケースが紹介されています。

5月16日にスタートしたブンデスリーガ、合計5つの試合が行われましたが、ボルシア・メンヒェングラードバッハとは対照的にヘルタ・ベルリン (Hertha BSC) は批判されました。ヘルタ BSC はTSG1899ホッフェンハイム(TSG Hoffenheim) に 3:0 で勝利したものの、 お互いに接近しあう選手がいたり、他の選手の頭をたたく選手、後ろから抱きつく選手、握手をしまくる選手がいたとのこと(前述の stern.de の記事より)。当然のことならが、DFLの内部文書に書かれた規則に違反しています。でも、シュートが決まった時、勝利が決まった時、選手たちが見せるやや大げさな喜び方は、サッカーでは当たり前の光景ですし、それを見てファンは共感して喜ぶのです。これがなくなってしまい、これがニュー・ノーマル(新たな正常)と言われても…。

新型コロナウイルス感染症が今後ある程度収まってくるに従って、規制が少しずつ緩和されて社会生活、経済活動が復活していくと思われますが、「新たな正常」はいったいどんな世界をもたらすのでしょうか。

PS. 近頃「新しい日常」という言葉がマスコミに多く登場しています。これが、new normal に対応する日本語表現ではないか、という指摘がありますが、かなり違います。normal (正常)という形容詞の反意語は abnormal (異常)です。「日常」の反意語は「異常」ではなく、せいぜい「非日常」です。つまり、「日常」は<比較的簡単に抜け出せるもの>なので、normal (正常)とは大きく異なります。つまり、new normal(新たな正常)は、もともと「異常」だった領域にあったもの。「新しい日常」は、new normal に比べてはるかに<軽い>のです。

(jo)

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