エーリヒ・ケストナー『終戦日記一九四五』 (酒寄進一訳)が2022年6月15日に出版されました。
“Neue” Japanische Übersetzung von „Notabene 45: Ein Tagebuch.“ (Erich Kästner) ist seit 15.06.2022 auf dem Markt.
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エーリヒ・ケストナー (Erich Kästner | de.wikipedia.org: 1899-1974) の Notabene 45: Ein Tagebuch が酒寄進一氏により新たに翻訳され『終戦日記一九四五』として出版されました(Kästner, Erich (1961): NOTABENE 45: Ein Tagebuch. Zürich: Atrium Verlag.)。
エーリヒ・ケストナーと言えば、児童文学の作家として日本でもよく知られた存在です。『エーミールと探偵たち』、『点子ちゃんとアントン』、『飛ぶ教室』、『ふたりのロッテ』などは特に有名です。しかし、ケストナーは児童文学だけを書いた作家ではありません。特に、今回、酒寄進一氏によって新たに和訳された作品は、Notabene 45: Ein Tagebuch(直訳すれば、「注意せよ 45: 日記」)というもので、すでに
エーリヒ・ケストナー(1962)(高橋健二 訳)『ベルリン最後の日―1945年を忘れるな―』新潮社。
エーリヒ・ケストナー(1985)(高橋健二 訳)『ケストナーの終戦日記―1945年を忘れるな』駸々堂。
エーリヒ・ケストナー(1990)(高橋健二 訳)『ケストナーの終戦日記―1945年、ベルリン最後の日』福武文庫。
として翻訳されていました。今回、これに新たに加わったのが、以下のものです。
エーリヒ・ケストナー(2022)(酒寄進一訳)『終戦日記一九四五』(岩波文庫 赤471-2)岩波書店。
エーリヒ・ケストナーは、父親がユダヤ人であったこともあり、ナチ政権下では排除の対象になっていました。彼の作品は、焚書(ふんしょ;Bücherverbrennung)の対象になっていました。1945年、ケストナーは当初ベルリンにいましたが、その後、オーストリアのチロル地方の村、マイヤーホーフェン(Mayrhofen | de.wikivoyage.org )に移り住みます。そして、その後はミュンヘンへさらに移住しました。この3か所で書かれた日記がまとめられているのが本書(1945年2月7日から7月29日まで)です。ナチ政権下から、連合国に占領された時代の日記で、ケストナー本人が「青い本」と呼んでいたものが、1961年にNotabene 45として発行されたのでした。
なぜ今になって再びこの Notabene 45: Ein Tagebuch が再び翻訳されたかというと、以下の2018年に刊行されたスヴェン・ハヌシェク責任編集版の『青い本』の存在があります。
Kästner, Erich (2018): (Hanuschek, Sven Hrsg.) Das Blaue Buch: Geheimes Kriegstagebuch 1941–1945. Zürich: Atrium Verlag.
この本の発行前に、『青い本』が2006年発刊された『マールバッハ・マガツィーン』(Marbacher Magazin) 111号、112号に掲載され、日本では、以下の本として発行されています。
スヴェン・ハヌシェク 著(2010)『エーリヒ・ケストナー 謎を秘めた啓蒙家の生涯』(藤川芳朗訳)白水社。
なんでこんなにいろいろ出ているのか、翻訳者の酒寄進一氏は同書の「あとがき」で次のように説明しています。
本書は日記という形式であることから、筆者本人にとってわかりきっている事項については説明しないケースが頻繁に見られる。戦時下だったこともあり、迫害や検挙の引き金となることを恐れてか、地名や人名を特定できないようにしているケースもある。とくに人名はその人物のナチ政権下での立場、行動などを知らないと、ケストナーの日記の文脈を理解することがむずかしくなる。今回の新訳では、2018年版『青い本』に付された詳細な注や複数あるケストナーの伝記、ナチやホロコースト、ドイツ人亡命作家やドイツ人映画関係者に関する辞典などを参照して、人名中心にできる限り訳注を入れた。」
(エーリヒ・ケストナー(2022)『終戦日記一九四五』p.349-350)
酒寄進一氏の今回の翻訳本の帯には、「大人は子どもよりも愚かではないか?」「世界的な児童文学作家が、ときに優しく、ときに皮肉とユーモアたっぷりに、戦時の人間模様を描き出す」と書かれています。あなたもケストナーの目から1945年を見てみませんか?
暴力はいけないよ、と子供たちに教える大人が戦争をしているのは、どう考えてもおかしいですね。
j.o.