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2回に渡って東京新聞に連載された平野卿子氏のコラム:「日本語に潜む性差別」2023/11/12, 11/19.

2回に渡って東京新聞に連載された平野卿子氏のコラム:「日本語に潜む性差別」2023/11/12, 11/19.
Hirano Kyoko schreibt in der Tokyo-Zeitung zweimal über Sexismus im Japanischen, am 12. und 19. November 2023.

ドイツ語圏の作品の翻訳家として知られる平野卿子氏が、2023年11月12日、11月19日と2回に渡って「言葉を見つめる」「日本語に潜む性差別」と題したコラムを東京新聞に執筆しました。1回目は「命令形なし 女ことばの制約」、2回目は「『女らしい言い回し』やめよう」というタイトルがつけられました。

一回目のタイトルになった命令形を考えてみましょう。平野卿子氏は、「女ことばには命令形がない」と主張します。そう言われた時に、「なんで?」と思った人も多いと思います。平野氏の挙げた例だと、「やめろ」や「(木を)切るな」は命令形であっても実は男ことばになっている、という指摘です。女ことばにすると「やめて」や「(木を)切らないで」となり、これはよく考えると命令形ではない、というのです。平野卿子(2023)『女ことばってなんなのかしら?:「性別の美学」の日本語』の22ページには、「人を動かしたいとき、女ことばではお願いしかできません。」と説明されています。そう、「やめて」はお願いであって、命令形ではないのです。

この「女ことば」、中村桃子(2012)『女ことばと日本語』(岩波新書) にも詳しく考察されていますが、実は、明治期の女学生の言葉(女学生のはやり言葉)が捏造され喧伝された結果、作られたと言われています(平野卿子 2023: 18)。現在では、若い人たちの間で、男も女もない中立的な言葉が使われるようになっているのは、その意味では健全な方向への変化でしょう(書き言葉の世界では、「役割語」としてしぶとく残っています)。

ドイツ語では、「女ことば」は無い、と一般的に考えられてきました。でも、平野卿子氏の翻訳したウーテ・エーアハルト(2001)『誰からも好かれようとする女たち―モナリザシンドローム微笑みの心理』(平野卿子訳)講談社+α文庫 には、「お行儀のよい娘は口にしない一連の言葉がある。」とし、ドイツ語でも女性が使わない表現があることを指摘しています。この本は、1994年にドイツでミリオンセラーになったそうです。

Ehrhardt, Ute (1994): Gute Mädchen kommen in den Himmel, böse überall hin. Warum Bravsein uns nicht weiterbringt. Fischer.

この本のタイトル、直訳すると「よい女の子たちは天国へ行き、悪い女の子はどこへでも行く:なぜ<いい子にしていること>が私たちをどこにも連れていかないか」となります。<好かれる良い女の子は、いい子なのかもしれないけれど、言葉に縛られないで何でもはっきり言う女性は、どこへだって行けるし、なんの制約もない>ということでしょう。いったいドイツ語でも女性が使えない言葉というのは何なのでしょうか?興味のあるかたは、ウーテ・エーアハルト(2001)(あるいは、原著 Ehrhardt (1994) )をお読みください(平野卿子(2023)の100~102ページにも簡単な説明があります)。

イルメラ・日比谷=キルシュネライト氏の「性別の美学」という用語の検討からはじまり、日本語に潜む「女ことば」や「男ことば」を徹底的に検証する平野卿子(2023)には、ドイツや他の西洋諸国との文化比較もちりばめられていて、目から鱗が落ちるような指摘やエピソードがいっぱい詰まっています。文学作品だけでなく、いろいろな映画やテレビドラマも題材になっているのも驚きです。この本は、あなたが「女らしい言い回しをやめる」、あるいは、「男らしい言い回しをやめる」きっかけになるかもしれません。

j.o.
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学習院大学ドイツ語圏文化学科では、副専攻「ジェンダー・スタディーズ」の立ち上げ主体となり、2024年度からは、「ジェンダーと言語」、「ジェンダーと表象文化」、「ジェンダーと現代社会」が開講されます。

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