ドイツ語協会(Gesellschaft für deutsche Sprache e. V. )は2024年の語にAmpel-Aus(信号機退場)を選ぶ。
GfdS wählt „Ampel-Aus“ zum Wort des Jahres 2024.
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2024年12月6日、ドイツ語協会(Gesellschaft für deutsche Sprache e. V. ) は2024年の語(Wort des Jahres)にAmpel-Aus(信号機退場)を選びました。
ドイツ語協会に寄せられた語の中で、ドイツ語協会の審査委員会が頻度ではなく、その年を特徴づけるものとして選ぶのが「その年の語」(Wort des Jahres) です。ドイツ語での詳細な説明とイメージを表現したコラージュも、「その年の語」のホームページWörter des Jahres 2024 | GfdS に合わせて表示されていますので、ぜひの方もご覧ください。以下では、私的コメントを交えながら解説しています。
第1位: Ampel-Aus(信号機退場)
ドイツは、社会民主党(SPD)と、自由民主党(FDP)、そして同盟90/緑の党(Bündnis 90/Die Grünen)の連立政権でした。政党を象徴する色が、SPDが「赤」、FDPが「黄色」、同盟90/緑の党が「緑」だったため、信号機連立(Ampel-Koalition)と呼ばれていました。いろいろ噂があり、昨年の語の5位にも Ampel-Streit(信号機のけんか)がランクインしていました。「連邦首相のオーラフ・ショルツ(SPD)は、経済・財政政策における越えがたい溝のある違いのために、11月6日に財務大臣のクリスティアン・リンドナー(Christian Lindner, FDP)を解任しました。FDPのほとんどすべてのその他の内閣閣僚たちも、その直後に退任を表明。」ということで、ドイツの政権が今後どうなるのか、目が離せない状況です。
第2位:Klimaschönfärberei(気候変動で美化)
Schönfärbereiという言葉は以前からありました。schönfärben という動詞の名詞化の一つです。「美化して実際よりもよく言う」という意味の動詞です。それに、接尾辞 -ei を付けて、「軽蔑的に「行為」を表した」のがSchönfärbereiです。Klima は「気候変動」を表す意味で使っていますので、green wash に関連する表現です。「気候変動の影響、あるいは気候変動対策の緊急性」をこんなにやっていますと美化したり、逆に「気候変動の影響や対策を軽視したりする」場合にも使われるようです。要は、企業戦略で気候変動問題を利用しているということでしょう。近年では、企業が気候変動対策を海外へ売り込むこともあるようですが、これらの具体的な対策が有効かどうかは、「Climinator という名前のAIプログラム」がチェックしてくれるのだそうです。お試しあれ。
第3位:kriegstüchtig(戦争できる能力がある)
SPDの政治家、ボーリス・ピストリウス(Boris Pistorius)が、「ドイツは、2029年までに戦争能力のある(kriegstüchtig)状態にならねばならない」と発言したことから広まったようです。もちろん、「戦争能力のある状態にならねばならない」ということは、現状では「戦争できない国だ」という意味になり、だから軍事力を強化すべきであるという議論につながります。怖いですね。
第4位: Rechtsdrift(右へのドリフト)
ヨーロッパ全体で、いえ、ヨーロッパ地域だけでなく、世界的に、政治が右傾化しています。これを「右へのドリフト」と呼んでいます。アメリカでトランプ大統領が復活するのも同じような文脈で捉えることができそうです。
第5位:generative Wende(生成的転回)
2023年の年の語の第4位に入っていた「AIブーム」(KI-Boom) に続いて、AI関係の語が今年もランクインしました。 generative Wende(生成的転回)は、もちろん生成AIが普及したことにあります。「転回」(Wende) は、もちろんコペルニクス的転回(Kopernikanische Wendung)から始まった用法でしょう。ドイツでは、ベルリンの壁の崩壊も Wende でした。生成AIのもたらした転回は、「新しいコンテンツを生成し、人間に近い方法で複雑なタスクをこなすことができる」ものです。気がつけば、生成AIは、「テキストを作り出し、文体的に最適化したり、翻訳したり」、さらには「芸術的、創造的にオーディオヴィジュアルなあらゆる作品を生成できる」ようになっていて、「検索エンジンにもあっという間に組み込まれています。
第6位: SBGG(性別記載に関連した自己決定に関する法律)
2024年11月1日に施行された法律で、性別の記載に関するものが「性別記載に関連した自己決定に関する法律」(Gesetz über die Selbstbestimmung in Bezug auf den Geschlechtseintrag) です。この法律は、1980年のトランスセクシュアリティの法律を置き換えることになりました。「自分の性的なアイデンティティを二値的な「男性/女性」体系の中に入れることができない人々、あるいは自分の社会的な性が自分の生まれた時の性と対応していない人たちが、今や官僚主義的なハードル無しに戸籍役場(Standesamt)で宣言することで自分の性を記載し、自分のファーストネーム(Vorname)を変更することができる」ようになりました。ただし、どんな名前でも受け入れてもらえるわけでもないようで、GfdSでもお名前鑑定をしているそうです。
第7位:Life-Work-Balance(ライフ・ワーク・バランス)
おや、「ワーク・ライフ・バランス」じゃないの、と思ったあなた。もうそれは古いんです。今は、「ライフ・ワーク・バランス」、つまり、仕事を優先して考えるのではなく、自分の生活を第一に考えて、仕事とのバランスをとる時代となったのです。日本もそうなって欲しいものです。
第8位:Messerverbot(ナイフ禁止)
とりわけ、クリスマスマーケット、スポーツイベント、市場、映画館、コンサートのような催し物では、あらゆるナイフの持ち込みが禁止になったそうです。「バックやリュックサックが検査されたり、人々が対象になって検査が行われたり」して、「禁じられたナイフを携帯していた場合には、原則的に処罰の対象になったり、最高1万ユーロの罰金が科せられる」そうです。治安を守る上ではしかたないとはいえ、厳しいですね。
第9位:angstsparen(不安節約する)
景気後退の局面では、人々は将来の不安にかられて節約をするようになるのだとか。そして、今、人々は将来の経済的な不安を感じて、ついには angstsparen(不安節約する)という動詞を作ってしまったとか。といってもそんなに流行しているようでもありません。そもそも分離動詞なのか、非分離動詞なのか、どこにも書いてありません。検索してみると、Süddeutsche Zeitung のWirtschaft:Die Regierung muss die Industrie weiterhin stützen, 13. Januar 2023, 21:21 Uhrに以下のように分離動詞として使っている例がありました。
Die Bürger haben auch deshalb nicht angstgespart, weil sie darauf vertrauten, trotz der Unsicherheiten ihren Job zu behalten.
でも、もう一方では、Die Presse のDie Pleitenwelle rollt an – DiePresse.com, 29.10.2024 um 08:28 のように非分離動詞の過去分詞として使われているものもあります。
Aber der Österreicher ist nicht etwa dankbar, sondern angstspart stattdessen.
第10位: Deckelwahnsinn(キャップの馬鹿騒ぎ)
2024年7月以来、あるEU法が施行され、ペットボトル (Plastikflaschen) からキャップ (Deckel) がとりはずせないようになっています。これは、ペットボトルに口をつけて飲む場合、とてもじゃまになります。もちろん、ゴミとしてペットボトルのキャップが散乱している状況を見て、なんとかしなければということから考えられた対策なのでしょうが、そもそも本当に環境にやさしい結果になるのかどうか。消費者に対してもやさしくないだけでなく、製造者側にも大きな負担となっているようです。ということで、「ペットボトルのキャップの馬鹿騒ぎ」となったわけです。日本では、ペットボトルはラベルとキャップを取ってリサイクルへ回すはずです(ラベルとキャップがプラゴミとして収集され燃やされるか否かは、自治体によって違います。日本では、キャップの扱いが国レベルで決まっていないのでした)。
j.o.