ドイツ語協会(Gesellschaft für deutsche Sprache e. V. )は2021年の語に Wellenbrecher(コロナ波遮断対策[期/者])を選ぶ。
GfdS wählt „Wellenbrecher“ zum Wort des Jahres 2021.
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2021年12月3日(金)にドイツ語協会(Gesellschaft für deutsche Sprache e. V. )は2021年の語に Wellenbrecher(コロナ波遮断対策[期/者])を選びました。詳細は、ドイツ語協会のプレス発表(GfdS wählt »Wellenbrecher« zum Wort des Jahres 2021 | GfdS) をご覧ください。以下では、このプレス発表での内容に基づいて簡単に解説します。
2021年の語(Wort des Jahres 2021)として選ばれたのは、ランキング形式で以下の10語です。新型コロナウイルス感染症(Covid-19 あるいは、SARS-CoV-2)関係の語が多くランクインしています。
1位:Wellenbrecher(コロナ波遮断対策[期/者])
日本では、現在これからオミクロン変異種(Corona-Omikron-Variante)が第6波となるのではないかと恐れられていますが、ヨーロッパでは、すでにオミクロン株が広がっている様子です。そして、現在は第4波(die vierte Welle)に襲われていると言われています。 この<感染の波を打ち破るもの>が、Wellenbrecher なのですが、この語はもともと「防波堤」とか「波よけ」の意味で辞書に載っています。では、実際にどのように使われるようになったのかというと、„Maßnahmen gegen Covid-19“(Covid-19 に対する対策)、„Zeitraum, in dem solche Maßnahmen gelten sollen“(コロナ対策がとられる期間)、„Person, die sich nach ihnen richtet“(その対策に従っている人)なのだそうです。そこで、ここでは「コロナ波遮断対策[期/者]」としてみました。それぞれが感染の波を遮断するためのものですが、接尾辞 -er の威力を感じます。苦笑してしまうのは、„Werden Sie zum Wellenbrecher!“ (コロナ波遮断対策者になりましょう!)という呼びかけです。
2位:SolidAHRität(連帯アール感)
今年、ドイツ西部でおきた水害(Flutkatastrophe) は深刻でした。とりわけライン川の支流アール川(die Ahr)周辺の被害は世界中に発信されました。アール川渓谷は、ワイン農家が多くあることでも知られています。この第2位に入った語、SolidAHRität は、Solidarität(連帯)とアール川(die Ahr)と結びつけて作られた混成語(Wortkreuzung)です。この混成語は、実際に洪水で被害を受けたワイン用ブドウ栽培業者・製造業者 (Winzer) に対する救援活動の名前でした。例えば、Hilfsaktion “Solidahrität” aus Nierstein für die Winzer an der Ahr – SWR Aktuell をご覧ください。ここでは、ちょっと無理して日本語でも混成語「連帯アール感」を作ってみました。
3位:Pflexit(プレクシット[≒看護出口])
コロナ禍で大きな負担がかかったのは、言うまでもなく医療従事者の方々です。さらには、介護を担う人たち、そして広くエッセンシャルワーカーの人たち。ここでは、Brexit(ブレグジット)などを模範としてつくられた語が3位となりました。Pflexit(プレクシット[≒看護出口])は、Pflege(看護) と Exit(出口) の混成語です。「看護の危機的状況」(Pflegenotstand) が背景にあるのは間違いなく、厳しい労働条件や報酬の少なさを理由に、多くの看護従事者が離職している現実があります。
4位:Impfpflicht(接種義務)
言わずと知れたワクチン接種に関する話題です。そもそも、あらゆる人がワクチンの接種を受けられるわけではない、という現実があります。例えば、アナフィラキシーなど重度の過敏症を抱える人たちです。さらには、接種を受けたくても、ワクチンの供給がなされていない地域もあります。そんな状況に加えて、感染拡大が深刻化するにしたがって、ワクチンの接種を義務化する地域がでてきています。それに対して、ワクチン接種を義務化するのは間違っていると、デモをする人々もいます。2022年2月から、オーストリアでは接種義務対策を導入する動きがあります(参照:Aktuelle Maßnahmen zur Impfpflicht, Stand: 09.12.2021)。
5位:Ampelparteien (信号機政党)
11月に発足したドイツの連立内閣、もちろん 社会民主党(Sozialdemokratische Partei Deutschlands, SPD) が「赤」、自由民主党(Freie Demokratische Partei, FDP)が「黄色」、そして緑の党(Bündnis 90/die Grünen)が「緑」で信号機の色になっていることから、この3つの政党をまとめて呼ばれる時に用いられたものです。
6位:Lockdown-Kinder(ロックダウンの子供たち)
コロナ禍の中で、2年近くもオンライン授業を受け、社会的接触の制限をされてきた子供たちが話題になっています。気がつくと、家庭内暴力が増加し、精神的にも痛めつけれられている子供たちがいます。学校の中でも感染拡大を引き起こさないために、いろいろな対策が行われてきましたが、子供たちには大きな負担になっているのは確かです。
7位:Der Booster (ブースター[接種])
日本でもブースター接種という言葉はすっかり定着していますので、特にコメントは必要ないと思います。最初は特定のグループの人に対して、その後は、18際以上のすべての人に対して、ブースター接種が推奨されるようになりました。
8位:freitesten (~をコロナ検査で自由にする・コロナ検査を受けて自由になる)
これもコロナ禍の表現ですが、ドイツ語を知る方にとってよく知られた分離動詞です。元々は他動詞で、「…をコロナ検査で自由にする」というところから始まり、再帰代名詞を伴って Haben Sie sich freigestestet? (あなたはコロナ検査を受け(自由になり)ましたか?)のような表現ができました。無料のネット辞書として知られる Wiktionary にもすでに再帰動詞として登録されています。
freitesten – Wiktionary を見ると、以下のように説明されています。
Bedeutungen:
[1] reflexiv: während einer Pandemie eine Quarantäne durch einen Test vorzeitig beenden können oder mit einem Test bestimmte Orte (wie Veranstaltung, Friseursalon oder Ladengeschäft) betreten dürfen
Quelle: freitesten – Wiktionary (abgerufen am 25.12.2021)
つまり、Wiktionaryでは再帰動詞として freitestenを扱い、その意味は「パンデミックの間に検査を受けて予定より早く隔離を終えることができる」、あるいは、「検査を受けて特定のところ(催し物、美容院・理髪店、お店)に入ることが許可される」だと言うのです。ここでの検査とは、いわゆる PCR検査(PCR-Tests)と抗原検査(Antigen-Test)のことだと考えられますが、ワクチン接種の義務化を視野にいれた 2G(Geimpfte, Genesene) の人たちを優先すると、Getestete (検査を受けた人)の行動の自由が狭められてしまいます。
9位:Triell(3人決闘)
11月に発足したドイツの連立内閣の話題は、Ampelparteien (信号機政党)のところでも話題にしましたが、党首討論会では、社会民主党、自由民主党、緑の党の3人の代表の決闘(=論戦)が見られました。これを Duell ではないので、Triell と表現した、という話です。
10位: fünf nach zwölf (12時5分過ぎ)
この奇妙な表現、発音する時には nach の上に強勢を置いて発音します。世界の危機的な状況を表すのに、fünf vor zwölf (12時5分前)という言い方がありますが、nach に強勢を置くことで<もう遅すぎるよ>、という危機を通り越した危機的状況を表すことができます。もう、一刻の猶予もないような問題、と思われる問題、たとえば気候変動対策やパンデミック対策を緊急で行わねばならない、すぐにでも行動しなければならない、という気持ちが込められています。
j.o.