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ドイツにおける「2020年の言葉」は Corona-Pandemie(コロナ・パンデミック)

ドイツにおける「2020年の言葉」は Corona-Pandemie(コロナ・パンデミック)

Das Wort des Jahres 2020 in Deutschland ist „Corona-Pandemie“. (2. Lockdown, 3. Verschwörungserzählung, 4. Black Lives Matter, 5. AHA, 6. systemrelevant, 7. Triage, 8. Geisterspiele, 9. Gendersternchen, 10. Bleiben Sie gesund!)


2020年11月30日にドイツ語協会(Gesellschaft für deutsche Sprache: GfdS) は、「2020年の言葉」(Wort des Jahres 2020) を発表しました。1位になったのは、Corona-Pandemie(コロナ・パンデミック)です。おおかたの予想通り。Pandemie というのは、「世界的な大流行病」のこと。思い起こせば、3月11日になってようやく世界保健機構(WHO)が新型コロナウイルス感染症(SARS-CoV-2)をパンデミックとして認めたのでした。

Karte mit aktuellen Zahlen: Coronavirus-Ausbreitung in Deutschland | tagesschau.de によれば、2020年3月15日のドイツの感染者数累計は4,838人でしたが、2020年12月18日には累計 1,510,652人です。日本では、12月21日に累計感染者数が200,000人を超えたというニュースが流れました(新型コロナ全国感染者 累計20万人超|日テレNEWS24)。世界的にまだまだ先が見通せない状況です(ジョンズ・ホプキンズ大学のデータベースでは、2020年12月22日現在の世界の累計感染者数は、およそ7700万人(77,364,641人)。詳細は、Coronavirus COVID-19 (2019-nCoV) 参照)。イギリスでは、COVID-19 の新種が報告され、これまでのコロナウイルスより70%感染力が強いと言われて大騒ぎになっています(New coronavirus variant: What do we know? – BBC News)。

今年の言葉は、第10位までを見ると、なんとコロナ関連が7つも入っています。それだけドイツでもコロナに明け暮れた年だったということでしょう。それでは、第2位以下も簡単に見ておきましょう。

第2位:Lockdown (ロックダウン)
言わずと知れた英語 lockdown、でも『ジーニアス英和大辞典』(2001-2011、電子辞書版)を見ると、「<米>(囚人の)独房への監禁」となっています。ちなみに、Oxford Advanced Learner’s Dictionary. 8th edition (2010) には、”an official order to control the movement of people or vehicles because of a dangerous stuation” と説明されています。Oxford の辞典の説明が合っているようですが、今年、「都市封鎖」あるいは、「特定地域の諸活動禁止」の意味で使われたのは新しい用法のようです。パンデミックを抑え込むために「社会的な接触を制限するための政治的に決断された対策」として行われたロックダウンは、法的拘束力を持って行われるものなので、日本では行われないようです。ドイツは、目下2021年1月10日までの予定でロックダウン中です。(Corona-Lockdown: Diese Regeln gelten mindestens bis 10. Januar | NDR.de – Nachrichten – NDR Info)

第3位:Verschwörungserzählung (陰謀物語)
退職する予定のトランプ大統領が、選挙で大規模な不正が行われたと主張し、裁判を起こしているのは有名な話。「これは、陰謀だ!」と叫んでいるのですが、「陰謀理論」(Verschwörungstheorie)とか言えるほどのものではありません。「自分は大規模な選挙違反の犠牲者である」と主張しているわけですが、根拠がないようなので裁判でも却下されまくっています。

第4位:Black Lives Matter(黒人の命は重要だ)
こちらの新着情報でも取り挙げたアフリカ系アメリカ人ジョージ・フロイド(George Floyd) さんが逮捕される際に死んでしまったことがきっかけとなり、人種差別的な警察の暴力に対しての長期間に渡る抗議運動となり、その波は世界中に広がりました(基本法第3条をめぐる論争:「人種」という語を基本法から削除すべきか?)。頭文字をとってBLMと言われることもあり、日本では「黒人の命も重要だ」と「も」を使って(無意識の内に)和訳されていますが、それは背後に「白人の命は重要だ」という前提を考えているからでしょう。英語表現には「も」に当たる表現は含まれていません。

第5位:AHA(頭字語:Abstand(距離)、Hygiene(衛生), Alltagsmaske(日常のマスク))
新型コロナ感染症に対してのスローガンは、各国でいろいろ考えられています。ドイツで広まったのは、AHA。「距離を取り、手洗いを厳行し、日常的にマスクをつける」というのがこんな形で一語になりました。「ほら、距離をとってよ!」(Hallo! Abstand halten!) と言われたら、「あっ、そうか。」(Aha!)と思いだすわけです。さらに、換気 (lüften) の重要さも指摘されていることから、この語の頭文字Lをさらに付けて、AHAL も作られました。なんだか、HALAL みたいですね。

第6位:systemrelevant(システムに関わる)
形容詞 relevant は、ラテン語系の形容詞で、英語にもドイツ語にも入っています。元々は<再び持ち上げる>から来ているとされますが、現代では、学術的世界で「重要な」、「関連性がある」という意味で広く使われています。その relevant が、System と結合したのが、systemrelevant です。例えば、民間の企業でも、このコロナ禍の中で破産されてしまうと国が困るようなことを指して、「システムに関わる」と言えます。また、社会をささえる基本的な仕事をしている人々(日本では、英語から取り入れたエッセンシャル・ワーカーという言葉が使われるようになりましたが)は、「システムに関わる」不可欠な存在です。ここでのシステムとは、「現在の体制」のことを指しているようです。

第7位:die Triage (トリアージ)
日本の大きな病院でも取り入れられている「トリアージ」。これは、「医療処置の緊急度に基づいた患者の優先順位付け」をするシステムです。たしかに緊急患者を迅速に助けるためには必要な順位付けですが、逆に言うと、パンデミックにおいては、治るチャンスがあまりない人間の手当は、なされないままになることを意味するかもしれません。命の選別など、本来はしてはいけないはずなのですが。

第8位:Geisterspiele (無観客試合(幽霊試合))
Geisterfahrer が「逆走車」、Geisterbahnが「化け物めぐりジェットコースター」、そして Geisterspiele は「無観客試合」です。これらの Geister- は、もともと「幽霊」とか「お化け」のこと。そうすると Geisterpiele は、「幽霊試合」ということになります。感染のクラスターを避けるために、無観客で行われたサッカーの試合、ありましたね(5月16日からブンデスリーガ再開、ただし無観客試合で。)。日本でも、いろいろなスポーツが無観客で行われた年でした。

第9位:Das Gendersternchen(ジェンダーの小さな星)
コロナ禍に無関係なこの語は、ジェンダー的に公平な言語使用を促進するために作られたものです、コンピュータのキーボードから入力できる「*」、日本では「※」を「コメジルシ」と呼びますが、ドイツ語では、der Asterisk(星印)、小さな星なのでSternchen と呼ぶこともあります。これと、ジェンダー (Gender)を付けたものが、「ジェンダーの小さな星」です。ドイツ語では、男性形と女性形が様々な職業などを表す名詞で異なって作られます。例えば、Arbeiter (男性の労働者)と Arbeiterin(女性の労働者)。それを合わせた複数形として、ArbeiterInnen という形も使われていましたが、「ジェンダーの小さな星」を使うと Arbeiter*innen となります。これで、男も女もそれ以外の性の人も全部あらわせる、と考えた人がいたようで、それなりに使われるようになりました(見かけは、ちょっとかわいいかも)。でも、Arzt — Ärztin のようにウムラウトがついた場合、Ärzt*in は男性形という解釈ができないとか、逆に Arzt*in とすると、女性形にならないとか、いろいろあります。ドイツ語協会では、この書き方に否定的な見解を表明しています(詳細はこちら:… Gendersternchen | GfdS)。

第10位:Bleiben Sie gesund! (健康でいてね!)
再び、コロナ禍の世界に戻り、別れ際の挨拶で使われるようになった表現として紹介されているのがこれです。今までは、いちいち別れ際に相手の健康を気遣う必要はなかったと思いますが、コロナ禍の世界では健康を脅かされる危機が日常的に起きるようになりました。

日本では、2020年12月1日に、「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞 | 2020 が今年の言葉に、「三密」を選んでいます。また、2020年12月14日に今年の世相を漢字一字で表現する年末の風物詩「今年の漢字」 | 公益財団法人 日本漢字能力検定 が発表されましたが、これは「密」でした。

コロナに始まりコロナに終わる今年ですが、来年は違う世界が開けていて欲しいものです。

j.o.

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