新着情報

「2020年の粗悪語」は Rückführungspatenschaften(本国送還代父母)と Corona-Diktatur(コロナ独裁制)

ドイツにおける「2020年の粗悪語」として Rückführungspatenschaften(本国送還代父母)と Corona-Diktatur(コロナ独裁制)が選ばれる。

Als Unwörter des Jahres 2020 wurden „Rückführungspatenschaften“ und „Corona-Diktatur“ gewählt.


2021年1月12日(火)に「言語批判的アクション:その年の粗悪語」(Sprachkritische Aktion UNWORT DES JAHRES)の審査委員は、「2020年の粗悪語」(Unwort des Jahres 2020) を発表しました。なんと、今年は2つの語が選ばれました。1つは Rückführungspatenschaften(本国送還代父母)、もう1つはCorona-Diktatur(コロナ独裁制) です。

Rückführungspatenschaften は、Rückführung(本国送還)と Patenschaften(代父母)から作られた合成語です。Rückführungspatenschaft(本国送還代父母)というのは、2020年9月にEU委員会が移民政策の新しい仕組みに対して付けた呼び方です。Patenschaften というのは、日本ではあまり馴染みがないものですが、日本語では「代父母」(だいふぼ)と呼ばれるものです。キリスト教で洗礼を受ける時に立ち会う保証人たちのことなのですが、この人たちは、一般的に実際の父母のように洗礼を受けた子供のことを後々まで社会の中で支えてくれる重要な役割を担います。さて、この新しい仕組みはどうなっているかというと、「難民の人たちを受け入れるのを拒否しているEUの国々は、EUの他の加盟国との連帯に公平でなければならず、拒絶された難民認定申請者たちを退去させる責任を負う」(Die EU-Staaten, die sich weigern, Flüchtlinge aufzunehmen, sollen ihrer „Solidarität“ mit den anderen Mitgliedern der EU dadurch gerecht werden, dass sie die Verantwortung für die Abschiebung abgelehnter Asylbewerber übernehmen.)というのです(Pressemitteilung: Wahl des 30. „Unworts des Jahres“ – und eine neue Jury!)。この移民政策が「本国送還代父母」なのですが、本来、Patenschaften は、「キリスト教に根ざす肯定的な概念」で、「助けを必要とする人たちのために責任を引き受け、支援する」仕組みなのに、「本国送還」と結びつけることで「国外追放が人間の良い行いである」かのように表現することになり 、それはもう「皮肉で言い訳がましい」(zynisch und beschönigend)表現になっています。

もう1つのCorona-Diktatur(「コロナ独裁制」)は、新型コロナウイルス感染症の Corona と、Diktatur(独裁制)を結びつけたもので、日本語的発想でも十分に理解できるものです。これは、感染症の広がりを阻止するための政府の政策を誹謗するために、自ら「一般人とは違う考えをもつ人々」(Querdenker)と呼ぶ人々や、極右の吹聴者が用いた言葉です。この言葉を叫んでデモをする人たちがいたそうですが、実際に独裁政権のもとにいたら、そんなことはできません。この表現は、かえって「実際の独裁政権を過小評価し」、「独裁政権に現地で戦い、自らが逮捕され死ぬまで拷問を受けることを甘んじてうけたり、逃走しなければならないような人々を嘲笑する」結果になっていると言います(もっとも、「民主主義」を標榜しながら「独裁的になりつつある」国もあるような気がしますが)。

新型コロナウイルス感染症対策として厳しい自由の制限が行われることは、誰もが望んでいることではありません。しかし、この感染爆発を止めなければ、経済の復興もなにもできないのが現実です。科学的知見に基づく厳しいコロナ感染症対策は、それなりに効き目があるはずです。これは、盲目的な独裁政治とは異なります。

粗悪語は、前年行われた一般公募の中から、審査員が選んだ語を一定の基準に従って選別し議論して決めたものです。票数の多い順で選んだものではありません。Pressemitteilung: Wahl des 30. „Unworts des Jahres“ – und eine neue Jury!の最後の方に出ているように、今回は、応募総数が 1,826語あり、語の種類としては、625個、70個が基準を満たすものだったそうです。Rückführungspatenschaft は、Abschiebepatenschaft と一緒にカウントされ 41個、Corona-Diktatur は21個あったとのことでした。

なお、恒例になった「粗悪語のイメージ」は、Unwort Bilder | www.unwort-bilder.de で公開されています。2001年から2020年までの「粗悪語」に関するプレス発表へのリンクは、Aktuelles / Presse | unwortdesjahres.net にあります。

この「言語批判的アクション」は、「不適切で、何かを隠ぺいするような語、あるいは、誰か・何か誹謗するような公の言語使用に注意を喚起する」という趣旨で行われています。「人間の尊厳や民主主義の原理に反するのような語、社会的な特定のグループを差別したり、婉曲的で、偽装し、人をまどわすような言語表現がとがめられる」のですが、振り返ると日本にもたくさんあるような気がしませんか?そ、それに関しては、お答えを控えさせていただきます。

j.o.

PAGE TOP